初開催!三宅島アニメーションワークショップをレポート~「島暮らし×アニメーター」の可能性~

今回は、三宅島で初めて開催された「三宅島アニメーションワークショップ」についてレポートをお届けします。三宅島出身で、現在、東京都東大和市でアニメ制作会社(株)ル ラフォートを経営する浅沼薫さんが主催し、動画制作体験や、三宅島が舞台のアニメ「つうかあ」の田村正文監督と脚本の高山カツヒコさんのオンライントークも行われました。

三宅島アニメーションワークショップとは?

ⓒル ラフォート

2024年6月2日(日)錆ヶ浜港に隣接する三宅村交流センター(ここぽーと)で「三宅島アニメーションワークショップ」が初めて開催されました。(当初は6月1日(土)に予定されていましたが、天候不順などの理由で6月2日(日)に変更となりました。)

主催したのは、三宅島出身で、現在は東京都東大和市でアニメの制作会社「株式会社ル ラフォート」を経営する浅沼薫さん。

浅沼さんは高校卒業後に島を離れ、30歳の時にアニメ業界に転身し活動を続けてきましたが、アニメ制作とふるさとの島とのつながりをいつしか考えるようになったといいます。

「島の子どもたちにアニメ制作という仕事があることを伝え、将来の職業選択のひとつとして考えてくれることができたらと思い、今回初めてアニメーションワークショップを企画しました。」と浅沼さん。

早速、ワークショップの様子をレポートします。

当日の様子

ワークショップの初回は、絵を描くことが好きな子どもたちやアニメ好きの大人まで、約20名の島内在住の方々が参加しました。

まず初めに浅沼さんの自己紹介と、今回講師として来島した現役アニメーターの中嶋さんをはじめスタッフの皆さんのご紹介があり、続いてアニメーションとは何か?について、詳しいお話がありました。

ⓒミヤケジマズ(浅沼さんと中嶋さん)

そしてアニメーションの基礎ともいえる動画の制作体験がスタート。ご存じのように、アニメーションは静止画が何枚も重なってやがて動画になりますが、いかに動きが自然に見えるか、そのしくみを講師が実際の作業で説明すると、参加者の皆さんからは「なるほど!」と感嘆の声があがりました。

トレース紙を何度もめくりながら、前の静止画から次の静止画がなめらかに見えるように、少しづつ鉛筆で線を描いていく作業に、慣れない方からは「難しい・・」とつぶやく声も聞かれましたが、画を描くことが好きな子どもさんが黙々と作業を続ける姿も見られました。

普段、テレビやスマートフォンなどで何気なく観ているアニメですが、描く線の強弱でキャラクターの表情が変わったり、動きに合わせて衣服のしわの細かいところまで描かれていることなどを知ると、改めてアニメーターの皆さんの存在の大きさに気づきます。

午前中の動画制作体験の終わりに、浅沼さんは「アニメ業界のデジタル化が進み、今ではインターネットがつながれば、どこでも作業ができるようになりました。アニメ制作は細かい作業が多く、時々リフレッシュすることが大切ですが、三宅島の環境であれば、疲れたと思ったらすぐ海に行って深呼吸ができます。島で暮らしながらアニメーターの仕事もできるので、ぜひ興味を持っていただけたらうれしいです。」と話しました。

「島暮らし×アニメーター」の可能性

ⓒミヤケジマズ

高校卒業まで三宅島で過ごし、30歳の時にアニメ業界に転身してから約20年近くになるという浅沼さんですが、島で暮らしながらアニメーターの仕事ができるしくみを今作ろうとしています。なぜそのような思いに至ったのか、浅沼さんにインタビューしました。

浅沼薫さん|キャリアインタビュー

Q:高校卒業後に三宅島を離れてから、アニメ業界に転身するまでのいきさつを教えてください。

浅沼:高校卒業後に専門学校に進み、20歳から10年間は郵便局員として勤務していました。30歳になり郵便局を退職して新しい仕事先を探していた時に、たまたま自宅近くで見つけたのが、アニメの動画制作や仕上げ作業を電送で行うシステムを開発した会社でした。

当時は「便送」といって、飛行機などで原画を送ることが普通だったため、電送になることが画期的だったんです。自分自身は正直いうとアニメに強い思い入れがあったわけではないですが、システムが変わればもっと制作環境も効率的になるのでは?と、営業的な関心がわき入社しました。

Q:アニメ業界に転身して面白かったこととはどんなことですか?

浅沼:それまで公務員として働いてきましたが、転身してからは、自分のアイデアを次の日には具現化して実行できるという環境になり新鮮でしたね。また、アニメを愛するプロ意識の高いクリエーターと仕事ができることも魅力のひとつです。

Q:その後起業されますが、きっかけを教えてください。また海外のアニメ制作会社とも関係を深めていきますが、どのような思いがありますか?

浅沼:アニメの動画制作や仕上げ作業などの経験値が上がり、自分でアニメーションをつくり出したいという思いと、当時外注していた中国のクリエイターたちと一緒に仕事がしてみたいという思いから2006年に初めて会社を立ち上げました。その後、アニメの制作本数が減少したこともあり、一度業界を離れたんです。

ですが、もう一度アニメの仕事をしたいと考え、2014年に動仕会社(アニメの動画制作や仕上げ作業を行う会社)を立ち上げ、さらに2021年にも別会社を立ち上げました。現在経営する(株)ル ラフォートでは、出産や育児でキャリアを離れざるを得なかったママさんアニメーターの積極採用や、未経験者でもアニメーターになることができる養成講座の運営など、画期的な取り組みを行っています。

日本のアニメ制作は今や海外のクリエイターの協力なくしては成立しませんが、中国で人材を探すのは、まさに「人口13億のなかから天才を発掘する旅」であり、次から次へと才能あふれる人材に出会える醍醐味があります。現在、中国の支社では多くのアニメーターが弊社の業務に参加しています。

ⓒル ラフォート(中国支社の様子)

さらに、海外のアニメーター人材の育成に貢献したく、現在、モンゴル国立美術大学の学生に向けた教育支援を行っています。ご存じのように、モンゴルは親日的で学生たちも日本のアニメが好きな人たちが多いです。また、国の人口が少なく、就職先も多くないため、技術を学びたいという必死さがあり、結果として才能ある人材が生まれています。

ⓒル ラフォート(モンゴル国立美術大学の様子)


Q:アニメ業界に転身して約20年が過ぎましたが、変化したことや課題について教えてください。

浅沼:アニメ制作のデジタル化が進んだことにより、リモートワークが増え、雇用の形も変化してきた印象があります。これにより、作業時間が多く取れるようになりましたが、一方で対面の機会が少なくなりがちで、コミュニケーションを取る難しさなどの課題もあります。

Q:浅沼さんから見た三宅島のよいところを教えてください。


浅沼:数えきれないほどよいところがあります。自分にとってはまさにホームアイランドなので、大自然のすべてに温かみを感じる場所です。

Q:三宅島で今後目指していきたいことを教えてください。

浅沼:今や日本のアニメは世界のアニメ。その基礎を支えるアニメーターとともに働き、育成にも貢献することで、日本と世界のかけ橋になれたらと思います。

また、国内のアニメーター育成にもさらに貢献したく、とりわけ、三宅島から将来のアニメーターが生まれるよう尽力したいです。さらに、アニメ関連の仕事が島内でできることで、雇用の拡大や、移住アニメーターの促進にも貢献したいと考えています。

アニメ「つうかあ」田村正文監督・脚本家高山カツヒコさんオンライントークまとめ

午後からの第二部では、アニメ「つうかあ」田村正文監督・脚本家高山カツヒコさんによるオンライントークが行われました。

つうかあ」とは、2017年10月~12月まで、TOKYO MXテレビほかで放映されたアニメで、制作会社SILVER LINK.の10周年記念として制作され、三宅島を舞台にサイドカーレーシングに挑む女子高校生の活躍を描いた作品です。

三宅島の雄大な風景や観光スポット、島内の商店や名産品なども描かれ、島民だけでなく三宅島を訪れたことがある人にも好評のアニメでした。

オンライントークでは、田村監督と高山さんからたくさんのお話を聞き、参加者も聞き入っていました。ここではその一部をご紹介しましょう。

Q:「つうかあ」で三宅島を題材にした理由とは?

田村:レースものの企画を最初考えた時に、架空の設定だけどある程度現実味がある場所だといいなと思っていました。いろいろ調べるうちに三宅島にたどり着き、島を一周するようなレースといったら?と考えてサイドカーにたどり着きました。

後で知ったのですが、三宅島で過去に島を一周するバイクレースの企画があったと聞き、びっくりしました。架空の流れがいつしかホンモノに近づいていった気がします。

Q:シナリオハンティングで訪れた三宅島の印象は?

田村:島に行く経験があまりなかったため、明け方、客船が島にだんだんと近づいていく感じが「あぁ、島に来たなあ。」と実感したのを覚えています。

高山:私は飛行機が着陸する時のイメージを覚えています。眼下に見えるのが、黒い砂浜や玉砂利で火山島を感じました。また海の色が深いんですよね。透明なのに色が深い。

Q:作品のなかで、三宅島の描写にこだわりを感じます。どんな思いでしたか?

田村:島一周のコースを考える時に、各コーナーに名前がほしくなって、ユニークなネーミングを考えました。

高山:島で有名な「牛乳煎餅」を販売している岡太楼本舗さんの前の道はストレートだったので「牛さんストレート」とか、実際の島の様子を反映しているところも多くありますね。

Q:三宅島で印象深い場所は?

田村:七島展望台ですね。緑に囲まれて自然の強さを感じる場所でした。見渡すとすべて海というのも壮大で好きなスポットのひとつです。作品のラストにも入れています。

Q:もし次に三宅島のアニメを作るとしたら、どんなアニメがいいでしょう?

田村:島を初めて訪れた女の子が島で過ごす「日常ほのぼの系」とかいいですね。

「つうかあ」でも聖地巡礼に来てくださった方がいると聞き、とてもうれしかったです。アニメを通じて島を訪れる方が増えたらいいですよね。

高山:「日常ほのぼの系」で、島を疑似体験できる観光アニメとかもいいですね。

Q:アニメの仕事を続ける上で大切にしていることは?

田村:素直な気持ちとチャレンジする向上心が両方必要だと思っています。自分がうまいと過信してはいけないけれど、その過信も必要な時がある。自分をコントロールできるようになるといいですよね。

また、目に見えるものを絵で描けるようになるために、日頃から観察力を磨くことも大切ですね。

高山:何にでも興味を持つことですね。また、アニメの仕事を好きでいられることも大切。好きなことを仕事にして辛くなるとよく聞きますが、その場合はそこまで好きじゃなかったのかなとも思うんです。

Q:三宅島でアニメの仕事をしたい子どもたちに向けてひとことお願いします。

田村:自然豊かな三宅島で育ったことはそれだけで優位性があります。「島ならではの記憶」、例えば、朝焼けのシルエットや美しい風景など、絵に活かせる記憶を増やすといいと思います。

高山:自分自身も地方で育ちましたが、今になって思うのは、集中できる環境があるのはいいことなんです。そして働くのはプロの現場であること。これは大事ですね。

アニメで三宅島と世界をつなげよう!

ⓒミヤケジマズ

今回は、三宅島で初めて開催された「三宅島アニメーションワークショップ」のレポートをお届けしました。三宅島は竹芝から南に約180kmの東京都の島。「離島」というほど離れていないことや島内のインフラも充実していることなど、オンラインやリモートワークが十分可能な場所です。

浅沼さんは「制作されたアニメのエンドロールに『ミヤケジマアニメーション』とクレジットが入り、それが世界の人々の目に留まることが目標。三宅島の子どもたちや、アニメを通して三宅島と関わりたいと考える人たちとともに、島と世界をつなげていきたい。」と話します。

今後定期的にワークショップが開催される予定とのことで、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか?

浅沼さんの取り組みに期待しています!


●記事内容は執筆時点に基づきます。

●記事監修:株式会社ル ラフォート